二つ月の神話 二(10)

「この生き物は何なの?」
 道すがら、雛鳥は小波に聞いてみた。「何だい、知らないのかい」
 小波は笑って言った。
「龍の子さ」
「龍…?」
 雛鳥は聞き返した。
「ああ。龍も知らないんだね。龍っていうのは、空を飛ぶ大きな蛇みたいなものだよ」
 それを聞いた雛鳥は呟いた。
「でも、全然似てないわ」
「まるで龍を見たことがあるように言うんだね」
 小波は面白そうに雛鳥を見て言った。
「あなたは龍を見たことはないの?」
「あるわけがない。龍は人間の目には見えないものなんだから」
 そう言って、小波は龍について説明してくれた。
「龍は、空の上、天の湖で生まれる。雷と共に落ちてきて、地上で暫く龍の子として生活する。その内成長した龍の子は走って走って、やがて風になって姿が見えなくなる。そうして大人の龍になるんだ」
 そんな話をしている内に、渡りの民の野営地に着き、雛鳥は小波によって長のいるという天幕に連れて行かれた。