2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

二つ月の神話 二(8)

曇る森を抜けた西の土地には渡りの民と呼ばれる人々が暮らしている、と雛鳥は聞いたことがあった。「渡りの民は、神々を恐れない」 曇る土地の人々は、そう言って渡りの民を嫌っていた。 しかしだとすれば、今の雛鳥にとって最も頼りにするべき人々なのでは…

二つ月の神話 二(7)

指は幸いにも動かせるようになり、雛鳥は名無し神の下を去ることにした。「君は帰る場所が無いんだろう?好きなだけここにいればいいのに」「でも、私は戦わなければいけない相手がいるの。傷も治ったし、行かなければならない」「剣を持っていない君が戦う…

二つ月の神話 二(6)

名無し神は、森をさ迷う名前を無くした神なのだと、囲いの集落の人々は噂していた。 無害ではあるけれど、時々人を惑わすから近づいてはいけない、と。 実際、一緒に暮らしてみて、名無し神は全く穏和だった。 まず、動物を殺さなかった。食べるものは木の実…

二つ月の神話 二(5)

目が覚めると、木の葉を敷きつめた寝台の上に寝かされていた。 日の光がわずかに差すそこは、洞窟の中の様だった。 傷を負った手を見れば、布が丁寧に巻き直されている。「起きたか」 ボソボソと話す、酷く年を取ったしわくちゃの老人がいた。男か女かすら迷…

二つ月の神話 二(4)

雛鳥は体を引き摺りながら、水場を探して森をさ迷った。小さな見えない蛇達を辿って、湧水を見つけた雛鳥は、痛みを堪えて傷を洗い、木の枝で指を固定して裂いた服の裾を巻き付けた。 片手でそれをやるのは酷く時間がかかった。 全てをやり終えた時には日が…

二つ月の神話 二(3)

ふくろう神を探して、森の中をさ迷っていると、一人の男に出会った。 その男は、右手に木の杖を持ち、左手には小さな矢を握っていた。男の顔には、あのふくろう神の羽の模様と同じ模様の刺青が施されていた。 雛鳥と対峙した男は、手に握っていた矢を雛鳥の…

二つ月の神話 二(2)

雛鳥は、少年が口にした、天の河について考えていた。 天の河の話は、囲いの集落の長の家で聞いたことがあった。 川の上流を上った先にある、神々の集う河の話だ。 川を上流に向かって辿って行けば、あの神のいる所へ行けるのだろうか。 ふと雛鳥は、一つの…

二つ月の神話 二(1)

「君は神様なの?」 その少年は、雛鳥の目の前に突然現れ、そう雛鳥に尋ねたのだった。 雛鳥は頭に血が昇って、咄嗟に少年を突飛ばした。「私は神を殺す者よ!」 雛鳥はそう言うと、そのまま見えない蛇を手繰り寄せて、空を飛んで行った。 何度も空を飛ぶう…

二つ月の神話 一(12)

雛鳥はふらふらと辺りを歩いた。 大祭で、母の声を聞いたことを思い出した。あれは幻聴だったのだろうか?それとも母は雛鳥の為に大祭にやって来ていたのだろうか?長や長老達は帰って来ないそうだが、どこかで災難を逃れているのではないだろうか?そんな期…

二つ月の神話 一(11)

雛鳥は呆然として、立ちつくしていた。 どれぐらいそうしていただろう。ふいに崖の下から、人の声が聞こえてきた。 四人の若い男達が、土砂に押し出されるようにして積もった家々の残骸の側で何やら話していた。 見かけたことのある顔で、時々狩りの合間に囲…

二つ月の神話 一(10)

ぐるりの山々の方角を目指して、雛鳥は山の中を歩いた。 もう見えなくなっていたはずの空を飛ぶ蛇は、今やそこら中に見えていた。 また、空を飛ぶ大蛇に乗れば、囲いの集落に速く辿り着くかもしれない。しかし空の上で見たことを思い出すと、恐ろしくてとて…