二つ月の神話 三(15)

「あんたの身に起きた事は酷い出来事だけど、でも、全ての子供が経験する事でもある」

小波が言った。

「親が、子供を守りきれずに子供の心が傷付けられる。そして子供は親が神様じゃないことを知る」

「雛鳥、あんたの母親は少なくともあんたを愛していた。あんたは“両親を売った子供”じゃない」

「凪も言っていたけど、両親を売った子供ってどういう意味?」

「ああ、曇る土地では使わない言い回しなんだね?渡りの民の言い回しでね、“可哀想な子供”って意味だよ。ずっと昔、本当にあった話でね。両親に売られそうになって、逆に両親を売った子供がいたんだって」

「名無しのあの子は、凪からその昔話を聞いて、自分のことだと思い込んでいた」

「あの子は凪に拾われたんだ。始めて見つけた時、記憶が何もなくてね。きっと記憶をなくしてしまった方が良いくらい酷い目にあったんだろうね。凪は、時々親無しの子供を拾う。あたしやあんたみたいなね。でも、拾って面倒は見ても、親代わりにはならない。あの子は凪に、父親か兄になって欲しかったみたいだけど、そうならない凪のことを恨むようになっていった」

「でも、あの子は両親を売った子供じゃなかった。クス・シイじゃなかった。あの子は二の月の神で、可哀想と言われる子供じゃなく、偉大な神様だった。…でしょう?雛鳥」