2023-01-01から1年間の記事一覧

二つ月の神話 一(9)

完全に日が暮れて、夜が来た。 雛鳥は空を飛ぶ大蛇にしがみつきながら、気が付けば分厚く黒い雲の中にいた。 そこには、雛鳥が乗る大蛇と同じ、神の風の化身である巨大な大蛇達が、無数に集結していた。 大蛇の群れは、ぐるぐると回って大きな輪をつくり、黒…

二つ月の神話 一(8)

雛鳥はふわふわとした気持ちでいたので、大祭の記憶はひどくぼやけていて、曖昧だった。 ただ、夕空の雲が、桃色、黄、橙、赤、紫、銀、金、青、紺、黒と、溢れる様に色とりどりにたなびいて美しかったことは、覚えている。 いつの間にか、雛鳥の乗る神輿は…

二つ月の神話 一(7)

囲いの集落を出た雛鳥達は、何度か休憩を取りながらも歩き続け、日が傾く頃になってようやく山を越え、彼らの暮らす集落、月森の集落を挑む丘に辿り着いた。 そのまま長老の蝦蟆は、月森の集落へと帰ってしまったので、雛鳥は長老の息子の蝌蚪と二人で、月森…

二つ月の神話 一(6)

祭りが終わり、日の落ちた頃合いに、長の使いが雛鳥の家を訪ねて来た。 焚き木の束を土産に持ってやって来たのは、雉(きぎ)という名の、雛鳥より四つ年上の長の息子の新妻で、雛鳥の母を長の家に呼びに来たのだという。 「あなたは囲炉に火を入れて、ここで…

二つ月の神話 一(5)

雛鳥の人生が、まるで渦に飲まれるように大きく巡り出したのは、雛鳥が生まれて十二度目に迎えた春の終わり。 それは、壺割り祭りの日のことだった。 壺割り祭りは、ひびが入ったり欠けたりして使われなくなった古い壺を、皆で割って埋葬するという、囲いの…

二つ月の神話 一(4)

それは、よく晴れた春の日のことだった。 雛鳥は、家の裏の山に登り、集落が一望できる場所で一人、山菜採りをしていた。 しばらく無心で山菜を採っていたが、ふと気持ちが途切れ、雛鳥は空を見上げた。 すると雲一つない空の上に、大きな蛇が飛んでいるのが…

二つ月の神話 一(3)

雛鳥の父は、雛鳥の物心がつく頃にはもう、亡くなっていた。 その為、幼い頃の雛鳥は、父が残した集落の北端の家に、母と二人きりで暮らしていたのだった。 雛鳥と母の暮らした家は、男手がなかった為に修繕が行き届いておらず、いくらかみすぼらしかったも…

二つ月の神話 一(2)

雛鳥は、囲いの集落、と呼ばれる集落で生まれた。 一際高く聳える二つの峰の頂に、一年中、老人の髪のように白い雪を積もらせた、「双子のお爺さんの山」として親しまれる山、双翁山を西に望み、緑豊かな山々が連なるその辺り一帯は、曇る土地、と呼ばれてい…

二つ月の神話 一(1)

それは雛鳥が、いくつの頃のことだっただろうか。 幼い頃、雛鳥は母の服の裾を引っ張って、こう問いかけたことがあった。 「ねぇお母さん。天の神様は、どんなお姿をしているの?」 母は優しく笑って、 「さあ。どんなお姿だと思うの?」 と、そう雛鳥に問い…

二つ月の神話 序

神様を殺そう。 雛鳥は決めた。 そう決めた途端、雛鳥の体は燃えるように熱くなり、一方で心は、水に沈むように冷えていった。 雛鳥は、空を見上げる。 嵐が去った後の空は雲一つなく、どこまでも水色に潤っている。 ざわざわとざわめく草木と共に、雛鳥の、…

くもるとつくもり

森の中のクモルとツクモリ いつも一緒のクモルとツクモリ ルルルルル クモルが歌うと、森はどんどん広がって クツクツクツ ツクモリが笑うと、森はびっしりと生い茂った だけど森が、あんまり大きく、あんまり深くなり過ぎたから クモルとツクモリは迷子にな…