二つ月の神話 二(15)

 雛鳥は再びクス・シイの背に掴まり、コダマに乗って渡りの民の野営地へと帰った。
「どうして遠出しちゃいけなかったんだろう」
 龍の子から降りる時、雛鳥がそう呟くと、「そりゃあそうさ」
 クス・シイは言った。
「僕らは奴隷だもの。気が付いてなかったの?」
 クス・シイは皮肉気に口端を曲げた。
「どう言う意味?」
 雛鳥が驚いて尋ねると、
「そのままの意味さ。渡りの民は奴隷の仲買人をしてるんだ。龍の子を使って、西の地の民と、曇る土地の民の間を行き来してね。曇る土地の民が渡りの民を蔑んでいるのはその為さ」
 日が暮れようとしていた。
 凪は、
「龍の子を勝手に走らせてはいけない。それがここの決まりだ」
 と言って、話したそうにしている雛鳥を制して、
「とにかく、今日は食事を取って、もう寝なさい。また明日話そう」
 そう言って休みに言ってしまった。
 雛鳥も渋々それに従い、休むことにした。
 夜。ふいに目が覚めてしまった雛鳥は、水が飲みたくなって戸口の水瓶の所へ歩いた。
 今夜は満月で、水瓶の水の中に月の光が落ちていた。
 側面に沢山の空を飛ぶ龍が描かれたその大きな水瓶の中を、雛鳥は覗いた。
 その水面には、あの天の神の顔が映っていた。
 雛鳥は、その水瓶を力一杯に突飛ばし、水瓶は転がって割れていた。
 神の姿はもうどこにもなかった。