雛鳥は、少年が口にした、天の河について考えていた。
天の河の話は、囲いの集落の長の家で聞いたことがあった。
川の上流を上った先にある、神々の集う河の話だ。
川を上流に向かって辿って行けば、あの神のいる所へ行けるのだろうか。
ふと雛鳥は、一つの川のことが頭に浮かんだ。
囲いの集落があった場所に新しく出来た川だ。あれから一度もあの辺りには行っていない。あの川はどこに繋がっているのだろう。
雛鳥は空を飛び、あの川を上流に向かって辿って行くことにした。
川を上流に向かって辿って行くと、どんどん見えない蛇が増えてきた。やがて見えない蛇の群れが出来、川は、見えない蛇に覆い尽くされた。見えない蛇達の作った川は、天に向かって高く昇っていく。雛鳥も蛇達と共に、泳ぐように昇っていった。
昇っていく内に、本当に水の中にいるように息が苦しくなってくる。
戻ろうにも、蛇の群れの勢いに圧されて抗うことはできない。
プハッと雛鳥は突然、空を突き破って息の出来る場所に出た。
そこは広い湖だった。
水面に浮いていた流木に、雛鳥は掴まった。
辺りを見渡すと、一羽の梟が飛んで来て、水面の上に止まった。
―あれは、ふくろう神だ。
雛鳥は、流木の上に乗ると、ふくろう神に頭を下げた。
「ふくろう神様、大神様。この世界が生まれる前から存在し、世界の始まりを歌に紡ぎ、この世界で最も多くを知ると言われる神様。あなたにお尋ね致します。大嵐を起こして私から全てを奪った神の居所を、私にお教えください」
しかしふくろう神は、一声鳴くと、そのまま飛び立った。
「お待ち下さい!」
雛鳥はそう叫んだ。飛び去って行くふくろう神に向けて、雛鳥は弓をつがえると、矢を放った。
矢はふくろう神の翼に刺さり、ふくろう神はくるくると回って湖の中に墜ちていった。
水に沈んだふくろう神を追って、雛鳥も湖の中に飛び込んだ。
湖の深くに潜っていくと、そこは再び空になり、雛鳥は雲の中を泳ぐ見えない蛇を捕まえて、ふくろう神が地上の森に墜ちていくのを目で捕らえた。
雛鳥は見えない蛇を操りながら、ふくろう神が落ちた場所へと降りていった。