目が覚めると、木の葉を敷きつめた寝台の上に寝かされていた。
日の光がわずかに差すそこは、洞窟の中の様だった。
傷を負った手を見れば、布が丁寧に巻き直されている。
「起きたか」
ボソボソと話す、酷く年を取ったしわくちゃの老人がいた。男か女かすら迷う程年を取った老人だ。
雛鳥は囲いの集落にいた頃、その老人を遠くから何度か見かけて知っていた。
森の名無し神だった。
名無し神が息を吐くと酷い臭いがして、雛鳥は思わず顔を背けた。
名無し神は、そんな雛鳥の態度を気にせず、ニコニコと笑って
「ちょっと待ってなさい」
と言って洞窟の奥へ行くと一枚の葉を持って戻ってきた。
「ホレ」
葉を雛鳥の口もとに持っていく。
葉の上には樹液が乗っていて、雛鳥はそれを舐めた。甘い。
「どうして私を助けてくれたの?」
雛鳥は聞いた。
「君は帰る場所がないのだろう?」
名無し神は言った。
「私も帰る場所がないからね」
雛鳥はそれから、不自由な片手が治るまで、名無し神の元で暮らすことになった。