雛鳥は、小波から渡りの民の言い伝えについて聞いた。
渡りの民は、昔は船に乗って、見えない龍の力で海を渡り、あちこちの島や陸を繋ぐ交易をしていたらしい。
しかし、ある時見えない龍が荒れ、嵐が起きてこの地に流された。この地の周りの海は見えない龍の動きが複雑で、とても海を渡れない。
そんな訳で、一緒に船に乗っていた龍の子らと共に、ここに暮らし始めたのだという。
しかし、曇る土地がそうであるようにこの西の土地も災害が頻発し、どんどん住みづらくなっている。数年前、海を渡ってこの地を去ろうという話が渡りの民の間で出た。元々この地は自分達の故郷ではないし、元の自分達の地を探そう、と。
しかし災害が増えるのと同じく、海もまた荒れやすくなっており、見えない龍の流れは全く読めない。
しまいには、強硬に海を目指そうとする者達と留まるべきだという者達が争うことになり、渡りの民は二分された。
強硬に海を目指す一派の中には当時の長だった小波の父、大波がいた。
大波達は、留まるべきだという一派と別れを告げて、海へ出て行った。
そして数日後、バラバラになった大波達の船と亡骸が海岸のあちこちに見つかったのだった。