クス・シイの両親は、どちらも天涯孤独で、その為助けてくれる身内もおらず、お互いに会うまで一人で生きてきたのだという。
二人はどちらも相手のことを自分の半身のように感じ、お互いのことを大切に思い、そしてお互い以外のことは、自分の子供達でさえ、どうでも良かった。
クス・シイの兄弟はたくさんいたが、何人いたかはわからない。両親は子供達を世話しようとしなかったので、ほとんどの子は飢えて死んだり、病気になって死んだりした。気まぐれにいくらか世話をやいてもらえ、育った子供も、すぐに渡りの民に売られてしまった。
クス・シイが覚えている兄弟は、兄と姉と、そしてクス・シイの双子の弟だけだ。
ある日、両親がまた、子供達の誰かを売ろうと決めた。
「あいつを売ればいいよ」
兄が、クス・シイを指差して言った。
「あいつは口ばかり達者な役立たずだ」
と。
「そうだね。僕は役立たずだ」
クス・シイは言った。
「だから、兄さんを売ればいいよ。役立たずな僕と違って、体も頑丈でいくらでも働ける。きっと良い値がつくさ」
と。
両親はクス・シイの意見を聞き入れて、兄を売った。
しばらくして、両親は再び子供を一人売ろうと決めた。
「あの子がいいわ」
姉が、クス・シイを指差して言った。
「あの子は狡くて悪知恵ばかり働く、いらない子よ」
と。
「そうだね。僕はいらない子だ」
クス・シイは言った。
「だからきっと誰も僕を欲しがらないさ。その点、姉さんは美人だから皆欲しがるよ。売るなら姉さんがいいんじゃないかな」
と。
両親は今度もクス・シイの意見を聞き入れて、姉を売った。
そしてしばらくして、両親はまた、子供を一人売ることにした。
残っていたのは、二人の子供だけだった。
「僕を売ればいいよ」
クス・シイは言った。
「弟は体が弱いから、きっと良い値はつかないよ」
と。
クス・シイは、意地悪な兄と姉のことは嫌いだったが、双子の弟のことは好きだった。だから、そう言ったのだ。
しかし、今度は両親はクス・シイの意見を聞き入れなかった。
両親は売られていった兄や姉と違って、クス・シイのことを従順で気が利く、役に立つ子だと思っていた。
クス・シイの双子の弟は売られていった。
それからしばらくしてクス・シイは、両親の目を盗んで曇る土地を束ねる集長に会いに行った。そして自分の両親が、西の祭祀場から様々な祭具を盗んでいることを密告した。
両親は罰せられ、曇る土地の人々によって奴隷へと落とされ、遠くの地へ売られていった。
クス・シイは密告料として、一振りの美しい剣を貰った。
クス・シイは剣と交換に、弟を買い戻そうとした。しかしすでに手遅れだった。
弟は死んでいた。体の弱い弟は、売られていった地の風土に耐えられなかったのだ。
クス・シイは弟の亡骸を引き取り、家の裏の木の下に穴を掘って、埋めた。表情一つ変えず黙々と作業を終え、家に戻り、誰もいない家の中を見て、ようやく泣き出したのだった。