二つ月の神話 一(1)

 

 それは雛鳥が、いくつの頃のことだっただろうか。

 幼い頃、雛鳥は母の服の裾を引っ張って、こう問いかけたことがあった。

「ねぇお母さん。天の神様は、どんなお姿をしているの?」

 母は優しく笑って、

「さあ。どんなお姿だと思うの?」

 と、そう雛鳥に問い返した。

 雛鳥はすると、そう聞いてくれるのを待っていた、とばかりに目を輝かせて、それから一生懸命になって、自分の心に思い描く神様の話を、母に話したのだった。

「あのね、天の神様はね。雲の服を召されているわ。雲の服は、雲を裂いて作った糸で編まれた服で、同じ形のままだったことがなくって、様々に形が変わっていく、不思議な服なのよ。

それからね、雲の服の上には、虹でできた上掛けを纏っていらっしゃるの。虹の皮を剥いで、鞣して作ったその上掛けは、色とりどりに耀いていて、それを天から地へと、長く長く枝垂れさせていらっしゃるの。

それから、首と、手首と、足首、それと耳たぶに開けた穴とには、沢山の星を通した紐飾りを、幾重も巻き付けていらっしゃるわ。星々がぶつかり合って、チリチリと鳴る音が聞こえてきたら、その音で、天の神様が近くにお出でになったって、わかるのよ。

それから背には、半月の弓。腰には、雷の矢がぎっしりと詰まった矢筒を提げていらっしゃってね。

そして頭には、太陽の光でできた冠を被っていらっしゃる。太陽の光は眩しいから、誰もはっきりと、その神様のお顔を見た人はいないのよ。でもね、私は知っているんだ。天に在す神様は、誰よりも美しいお顔をされてるってことをね。

それから、それからね…」

 こういった調子で、雛鳥は神様について話し出すと、止まらなかった。

 幼い頃の雛鳥は、神々の物語が大好きで、いつも神様のことを夢想している、そんな子供だった。