二つ月の神話 三(10)

 名前を取り戻した二の月の神は笑った。
「僕は地上を放浪していて、名前を失くしてしまったんだ。でも今、僕は名前を取り戻した!」
「さあ、ここから出よう」
 二の月の神は言った。
「待って、この巨大な見えない龍を、助けて」
 雛鳥は言った。
「この巨大な見えない龍の名前は、小鳥。一の月の神の小鳥なんでしょう?」
「ああ、そうさ。こいつに呪われて、僕は名前をなくしたんだ」
「じゃあ、この小鳥を一の月の神に返して、仲直りをして」
「でも、この小鳥は曇る土地の下にいる。小鳥を助けたら、曇る土地も無事ではすまないよ」
 二の月の神は言った。
「君は曇る土地に復讐したいの?」
「違う、救いたいの」
 雛鳥は言った。
「このまま小鳥を放っておいたら大祭は続き、踊り子は死んでいく。曇る土地はそれを選び続ける。それにこの小鳥はこの土地に縛られて苦しんでいる。龍は流れる生き物。ここに止め続けている方が曇る土地にとっては危険よ」
「今までの踊り子は、曇る土地を守る為、この小鳥を殺そうと戦ってきたんじゃないの?それを無駄にして、本当にいいの?」
「無駄じゃないわ」
 雛鳥は言った。
「小鳥を殺す為じゃない、小鳥を解放するの。それが踊り子の意思よ。最後の踊り子の私がそう決めたの」
「それは君が勝手に作った物語だ」
 二の月の神は言った。
「雛鳥らしいや」
 二の月の神は、雛鳥の手を取った。
「それじゃあ、行こう」