二つ月の神話 三(11)

「雛鳥、雛鳥」
 それは小波の声だった。
小波!」

「雛鳥、そこにいるのかい?渡りの民皆で助けにきたよ!大祭に参加していた曇る土地の者達は、凪達が既に包囲してる」
「どうして?私は龍の子を逃がしたのに」「どうせ海には連れていけないって凪が言ってね。それにあんな悪さくらい、凪は慣れているよ。凪は親無し子をよく引き取るんだけど、しょっちゅう面倒を起こすんだ。私だってもっと酷いいたずらをしたもんだよ」

「まあ、責任を感じているんだったら、戻ってきて」

「だったら小波、渡りの民も、曇る土地の民も、今すぐここから離れて!この下にいる見えない龍が天に戻るの。もうすぐこの山は無くなるわ」
「何だって?あんたはどうするの」
「心配ないわ。とにかく、早く逃げて」
「わかった、凪に伝える」
小波はそう言って、声は聞こえなくなった。
 そして、ドオンという音が辺りに響いた。
 グラグラと地面が揺れる。
「さあ、小鳥を一の月の神に返すよ」
 二の月の神がそう言い、揺れは一層激しくなった。
 辺りは暗く、何も見えない。
 不意に、地面が無くなったように足が浮いた。
 飛んでいるのか。墜ちているのか。進んでいるのか。止まっているのか。
 何もわからないまま、雛鳥は二の月の手を握りしめた。