雛鳥はふらふらと辺りを歩いた。
大祭で、母の声を聞いたことを思い出した。あれは幻聴だったのだろうか?それとも母は雛鳥の為に大祭にやって来ていたのだろうか?長や長老達は帰って来ないそうだが、どこかで災難を逃れているのではないだろうか?そんな期待は打ち破られた。集落の人々が埋まっていると思われる場所より離れた場所で、母の死体を見つけた。
高い崖から落ちたようだった。
以前、雛鳥の父が死んだ崖だと聞かされた場所だった。
雛鳥は、泣くことも出来ないまま
「お母さん」
と呟いた。
頭は真っ白で、心はバラバラに乱れているのに、体は妙に冷静に動いて、母に土を被せて埋めた後、若者達に奪われていないものが何かないか探し始めた。
冬に備えて、集落の皆で拾った栗やどんぐりを詰めた壺を色々なところに埋めていたはずだった。
殆どは流されていたが、二壺だけ、掘り返すことができた。
他にも、壊れていない壺がいくつか、子供用の小さな弓矢、乾かせばまだ使えそうな弓形の火起こし器と石包丁を見つけた。
雛鳥は、それらを苦労して山に壊れず残っていた狩り小屋へ運んだ。
きっと、冬までは雛鳥一人でも生きていけるだろう。でも、冬は越せない。集落の周りの栗の木とどんぐりの木は流されていたし、雛鳥は冬を越す為の毛皮を持っていなかった。
雛鳥は、狩り小屋から外に出た。
ぐるりの山の中腹、木々が開けて、短い草に覆われた斜面の上にやって来た。
神様を殺そう。
雛鳥は決めた。
復讐をしなければならない。
それが出来るのは、生き残った雛鳥だけだ。
神のいる天まで飛んで行ける雛鳥だけなのだから。