二つ月の神話 三(3)

 クス・シイは、曇る土地の中で最も影響力のある玉作りの集落の長、狢の前にいた。
「お願いだ。雛鳥を解放して欲しい。大祭なんてもう何年も行われなかったのに、今さら女の子を生け贄にまでして何の意味があるんだ」

「雛鳥は曇る土地の仲間じゃないのか?」

「私は犬を飼っている」

「犬を家族のように思っているが、もし本当の家族が飢饉で餓えて死ぬかもしれないとなれば、迷わず犬を殺して家族で食べるだろう。雛鳥は我々の仲間だが外側の仲間だ。犠牲になる順番は決まっている」
「お前はあの娘に惚れてでもいるのか?あの娘は既に神のものだ。諦めろ」
「だったら僕は雛鳥を嫁に貰う為に、神に決闘を申し込む」
 ああ、言ってしまった。もう取消せない。クス・シイは心の中でそう思った。