二つ月の神話 二(18)

 雛鳥とクス・シイとコダマは、双翁山の麓を何日もさ迷い続けた。

 不思議と食べ物にも枯れ木にも困らず、何かしら見つけて夕方には火をおこして調理をし、食べた。

 その内に、コダマが行きたがらない場所があることに気が付いた。
「きっとそこに天の湖があるんだわ」
 雛鳥はそう言い、コダマを置いて、歩いてその場所に向かうことにした。クス・シイも後に続いた。
 険しい山の中を歩き、前に進むと、木々が開けて、湖のある場所に辿り着いた。
「ここが天の湖?確かに美しいけど、でも誰もいないよ」
 クス・シイの言葉に答えずに、雛鳥は湖の前まで歩いて行った。そして、湖の縁に手を付いて、水面を覗き込んだ。
 水面には、見えなくなっていたはずの龍達が、群れを成す姿が映っていた。
 雛鳥は、湖の中に飛び込んだ。
「雛鳥!?」
 クス・シイの声を後ろに残して、雛鳥は湖面に映る空の中を飛ぶ、龍の背に掴まった。
 雛鳥は、龍に乗り湖の中の空を飛んだ。息が苦しいのは、水の中だからなのか、それとも空高くにいるからなのか。自分が昇っているのか、落ちているのか。雛鳥には分からなかった。
 息苦しさと、落ちている感覚から、雛鳥は大祭の日、崖から落ちたときのことを思い出していた。
 あの時、足を滑らせて落ちたのだと、そう思っていた。そう思い込もうとしていた。
 でも、本当は足を滑らせて落ちたのではない。突き落とされたのだ。
 雛鳥の後ろにいたのは、後ろにいたのはー
「お母さん」
 雛鳥はあの時、母に突き落とされて、崖から落ち、龍に乗って空へ昇ったのだった。
 気が付けば雛鳥は、龍に乗って雲の上、湖の底にいた。
 龍がゆっくりと巡るその中心の社に、雛鳥は降り立った。
 社の中から、神が現れた。
「やっと落ちてきたのね。私の手の中へ」
 雛鳥そっくりの顔をした神は言った。