二つ月の神話 三(8)

 雛鳥は、祭壇の上で踊り続けていた。
 雛鳥は長い踊りの中で、体力が奪われていくのを感じた。一方巨大な龍は少しの疲れも見えなかった。
 覚えた長い踊りももうすぐ終わる。そこからは雛鳥自身が踊りを続けなければならない。
 祭壇の血の染みが雛鳥の目の端に映った。
(クス・シイ…)
 クス・シイはきっと、雛鳥を助けようとしてここにきたのだ。そして巨大な龍に食べられた。そのことを考えると、雛鳥は震えるほど怖くなった。
 クス・シイは死んだのだろうか?
 まだ、死者の国の手前で踏み止まってくれていれば…。
 雛鳥の剣が、見えない龍の鼻先を切った。
 巨大な龍が、吠える。
 雛鳥は、ふくろう神の頬を切ったことを思い出した。この剣でなら、傷をつけることができる。
 しかし、このままこの場所で戦い続けても、勝ち目があるとは思えない。
 ならば、習った踊りの振り付けが終わる前に、龍の動きが予測できる内に。
 雛鳥は、龍の口の中に飛び込んだ。
 龍は、繰り返す生き物。巡る生き物だ。季節のように、水のように、風のように。
 しかし、この巨大な龍は、洞窟から首を出し、もがくように暴れているだけだ。
 流れることが出来ずに、ここに留められているのだ。それは何故か?
 その答えを、雛鳥は探さなければならない。